本田直之が語るイグジットとは 「イグジットはリタイアを意味するものではない」 | 投稿 | 株式会社M&Aコンサルティング
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本田直之が語るイグジットとは 「イグジットはリタイアを意味するものではない」

本田直之が語るイグジットとは 「イグジットはリタイアを意味するものではない」

2021.12.30
本田直之が語るイグジットとは

「イグジットはリタイアを意味するものではない」

前回の第2回に続き、レバレッジコンサルティング社長の本田直之氏にお話をお伺いします。アメリカにMBA留学し、外資系企業を経て、参画したベンチャー企業を上場に導いた経験もお持ちの本田氏。いろいろな事業を展開する経営者との幅広いネットワークでも知られています。本田氏に会社や事業のイグジットについてお聞きします。

ライフプラン、デュアルライフ、イグジットの3つのテーマで3回にわたってお伝えします。

【 プロフィール 】
レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役 シティバンクなどの外資系企業を経て、バックスグループの経営に参画し、常務取締役としてJASDAQ上場に導く。 現在は、日米のベンチャー企業への投資育成事業や、クローバルブランド企業のアドバイザーなども務める。ハワイ、東京に拠点を構え、年の5ヶ月をハワイ、3ヶ月を東京、2ヶ月を日本の地域、2ヶ月をヨーロッパを中心にオセアニア・アジア等の国々を旅しながら 、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。これまで訪れた国は61ヶ国220都市を超える。著書に、レバレッジシリーズをはじめ、「パーソナル・トランスフォーメーションコロナでライフスタイルと働き方を変革する」「新しい働き方」、「オリジナリティ 全員に好かれることを目指す時代は終わった」等があり、著書累計300万部を突破し、韓国・台湾・香港・中国・タイで翻訳版も発売。

イグジットは、経営戦略の一つに入れておくべき

土橋 ライフプラン、デュアルライフと聞いてきましたが、今日は企業のイグジットについてお聞きしたいと思います。

本田 イグジットは、経営戦略の一つに入れておくべきだと思っています。
 どうしてかというと、それも経営者の役割だと思うからです。安室奈美恵さんは、見事な引き際だったからこそ、今もイメージがいいわけですよね。最後までヒーローだった。これは、経営も同じだと思うんですよ。いつまでもやればいいわけではない。
 そもそも永遠に伸び続ける会社、生き続けられる会社というのは、少ない。そして、ステージというものがある。自分が経営者として伸ばせるステージと、そうでないステージ。会社の落ち着いていくステージ。さらに衰退していくステージもある。
 衰退していくステージになったら、もう遅いですよね。だったら、未来があるときにイグジットする。他に任せる。そうすることが、自分のためでもあるし、社員のためでもあると思うんです。
 厳しい言い方をすれば、能力が追いつかない経営者が居座ることほど、会社にとって迷惑なことはありません。たしかに1000億円企業を作ることができる経営者もいますが、それは本当に稀だと思うんです。
 だから、イグジットは、会社のためにも社員のためにも自分のためにも視野に入れていないといけないと思っています。永遠に伸ばせるならいいですが、それは難しい。となると、どこで退きますか、という話になるわけです。

土橋 時代背景もありますね。高度経済成長期は、人手があれば会社を伸ばすことができた面もある。でも、今は違う。

本田 ある会社は年商が100億円まで伸びたんです。でも、実は社長はそれ以上、大きくすることに興味がなかった。そもそも、それほど会社をやりたいわけでもなかった。役員たちも、それ以上伸ばせるとは思っていなかった。
 やっぱり、経営のやり方が違うわけです。人の動かし方も、中堅企業と大企業では違う。数千人、数万人をマネジメントするのは、まったく違う能力です。売り上げ規模で、できることも変わってくる。そのことに、経営者も役員も気づいていた。
 後に上場するんですが上場前から、いずれはイグジットを、というプランを考えていたんですね。そしてシナジーを活かせる大企業に、最終的に100%買収され大企業のグループ会社となり上場廃止しました。
 しかも、後々のイグジットのために準備を進めていた。創業社長に代わって経営ができる人材を探して、イグジット前に次期社長候補を迎え入れていたんです。それで、会社の雰囲気が大きく変わった。スムーズに経営のバトンタッチもできた。
 買収した親会社はほとんど何もしていないんですが、10年で、売り上げ規模が当時の2倍ほどになっています。これも、しっかり経営戦略の一つに入れていたからうまくいったんだと思うんです。

向いていないことをやらせるべきではない

土橋 創業者も、役員も、社員も、新しい経営者も、買収した会社も、みんながウインになれたということですね。

本田 やっぱり、向いていない人に、向いていないことをやらせるべきではないんですよ。人気のレストランを作って大きな成功を遂げた経営者がいるんですが、彼も会社をイグジットしました。
 なぜかといえば、彼の強みはクリエイティブだったからです。上場すれば、売り上げを伸ばすことを求められる。それこそ大手ショッピングモールに店を出さないといけない、なんてことになる。でも、クリエイティブな彼にはまったく向いていないんです。
 それなら、会社はイグジットして、チェーンを大きくすることが得意な人にやらせたほうがいい。自分はクリエイティブな部分だけを引き受ければいいわけです。
 最終的に、経営が得意だったナンバーツーに会社を委ねて、上場していた株式をほとんど手放しました。これも、すごくいいケースだと思います。彼は今もクリエイティブな力で、引く手あまたですから。

土橋 なるほど、自分の特性を活かして、また新たに始める、というのもありますね。自分には、できるときとできないときがありますから。上場会社じゃないからこそ、できることもありますよね。

本田 やっぱり、自分の向き不向きも考えないといけないと思うんです。自分には、どんなことでも全部できるのかといえば、そんなことはないわけですし。

土橋 そこは見極めないといけないところですね。

本田 実際には、イグジットのような選択の実例をあまり見ていないんだと思うんです。まわりにも、そういうケースが少ないんじゃないかと。僕は今、Honda Lab.というオンラインサロンをやっていて、その中に全国の経営者が会員になる「Honda business Lab.」があるんですが、これを始めようと考えたのも、実例を見る機会が少ないと思ったからなんです。
 地方都市にずっといて、それこそ青年会議所とかロータリークラブしかネットワークがないような経営者では、会社をイグジットする、なんて発想にはなかなかならないでしょう。昔気質の経営者の人たちから、そういうことはまず聞こえてこないと思うから。
 でも、もうすっかり時代は変わっているんです。僕自身は海外にも行っていて、海外の経営者がどうしているのかも見てきていました。それこそ、経営戦略としてのイグジットなんて、当たり前なんですよ。

土橋 そうですね。合理的ですものね。

本田 ところが日本では、「会社を売るなんて」という声が聞こえてきたりする。僕には、どうして疑問を持つのかも、さっぱりわからないわけです。そのほうが、みんなウインなんですよ。でも、どうしても感情的に考える人が多い。

ファンドに対する意識も、かなり変わってきている

松栄 引き際を考えるときには、きっかけが重要なのかもしれないですね。

本田 これからでもいいので、未来のプランニングをしてみたらいいと思うんです。将来像を作ってみたとき、本当にそこまで自分でやるのか、という話です。楽しくやることができればいいわけですが、いずれにしてもどこかのタイミングで向き不向きは絶対に出てくる。
 ベンチャーにしても、創業者や役員に本当にとんでもない能力があるのか、といえば、なんとなく行けちゃったところもあると思うわけです。たまたまいい仕組みができちゃった、とか、たまたまいいお客さんが取れてしまった、とか。
 実は、それで勝ち残ってきただけで、これが本当に未来も続いていくのか、冷静に判断をしたほうがいいんです。

土橋 実際、イグジットを考える人も増えてきていますね。

本田 そうなんですよ。会社を売却して次のステージに行って、経営者としてどんどんポジションを上げていく人もいる。また買収された大きな会社の中で登用されて、次期社長の声がかかっている人もいますね。
 まわりにそういう人がいると当然、そういう発想になってくる。選択肢の一つになってくる。でも、付き合う人がそうでないと、わからないんですよ。だから、そこを変えないといけないんです。地方の経営者と話をしていると、もったいないと思うことは多いですね。

土橋 そうですね。いつも同じ人で集まって、みんなで心地良さを求めているだけでは危ないですよね。イグジットについても、そうしても「社員を残してきてしまった感」を持つ経営者もいます。

本田 でも、ちゃんとやるべきことをやってイグジットすればいいんです。さっきの例にしても、何年もかけて準備して、後任の社長を採用した。こういう準備をするのも、経営者の仕事です。もちろん、売却先にいい人がいれば、それでもいいと思う。
 大切なことは、向いている人が次を担えるか、ということです。

土橋 イグジットでは、買い手が見つからなくて決まらないというケースもありますが、後任の経営者という意味では、サーチファンドのようなところが活躍してくるかもしれないですね。

本田 それはありますね。

土橋 経営者意識を持っていながらもまだ起業していない人たちから、プロフィールだけが送られてくる。この人はこういうことをやりたいのだが、こういう規模感で案件はありますか、という問い合わせが来たりしています。やっぱり時代は変わってきたな、と感じています。

本田 ファンドが入るメリットは大きいと思います。プロが加われば戦略レベルも上がるし、資金調達も変わる。グローバル戦略も描ける。例えば、飲食業ではなかなか利益率が取れませんけど、ビジネスを組み合わせることでまったく違うものができるわけですね。

松栄 ファンドに対する意識も、かなり変わってきていますよね。

本田 そこでもやっぱり、知らないことに対する抵抗が強いんです。

イグジットはリタイアを意味するわけではまったくない

本田 あと、イグジットの話はメディアに出てきませんから、付き合う人やネットワークを持っていないと知りもできない。関係者は、なかなか話をしてくれませんから。

土橋 そうですよね。内情ですから。

本田 僕だって、こんな話をする機会はなかなかない。

土橋 お金の話になるので、センシティブですよね。仲が良いから話せるのかというと、また違う。

松栄 会社の経営が自分の人生だ、という人もいます。イグジットをした後、経営者は何をしたらいいのかわからない、という声もよく聞くんです。

本田 イグジットするとリタイアだと思っている人がいますよね。やることがないから、と。そんなんじゃなくて、もっと自由になって、好きなビジネスをやってみたらいいと思うんです。
 新しい楽しさは、間違いなくある。何もやらない、なんてもったいないと思うんです。それでは人生、面白くない。ときどき自虐的に、会社を売ってお金は入ったけど不幸だ、なんて話が聞こえてくることがありますが、まったくそんなことはないわけです。自由にいろんなことができるんですから。どんどんやったらいいんです。
 それこそ会社をやっていたときは、社員に対する責任がありますから、適当なことはできなかった。やりたいことに対して、大きな投資をするにも難しさがあった。でも、自分に資金が入ってきて、それをもとに何かやるのであれば、いいと思うんです。自分のお金でやるわけですからね。社員に迷惑がかかるわけでもない。

松栄 イグジットはリタイアではない、という言葉はいいですね。

土橋 たしかに、そうですね。

本田 リタイアしたい人は、それでもいいと思うんです。でも、リタイアしてもつまらないんじゃないでしょうか。社会的なくさびがなくなりますから。毎日ゴルフも楽しいかもしれないけど、飽きますよね。やっぱりビジネスがあるからこそ、いろんなことに関われたり、面白いことに出会えると思うんです。
 その意味では、若い年齢でイグジットを考えてもいいと思う。60歳になったら、なんて考えずに、もっと早くやってもいい。会社も元気なうちに、考えてみる。ビジネスには、旬もありますからね、10年20年続くビジネスって、すごく少ないと思うんです。特に今の時代は。

土橋 そうですね。レガシー産業などは、評価が高いうちに、というのはあると思います。買い手の体力もなくなってくるかもしれない。お金を払う人がいて成立するのが、イグジットですから。

松栄 経営者は、なかなか本音を言えない環境にいるのかもしれないですね。本当はラクになりたいのに。

本田 それは従業員のためでもあるんです。イグジットはポジティブであるということ、経営戦略でもあること、多くの人に知ってもらいたいですね。

写真左より、弊社取締役会長・土橋裕太、本田直之氏、代表取締役社長・松栄遥
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