業務委託型ヘアサロンを銀行系ファンドに売却 | 成約インタビュー | 株式会社M&Aコンサルティング
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業務委託型ヘアサロンを銀行系ファンドに売却

業務委託型ヘアサロンを銀行系ファンドに売却

2020.04.10

東京、千葉、埼玉に11店舗の業務委託ヘアサロン(美容室)を展開するHM company・Relato合同会社 。代表社員の上村盛仁氏は、新たな成長戦略を実現するため、10年間育ててきた事業の譲渡を決断。複数の企業・ファンドが手を挙げる中、上村氏が選んだのは、株式会社百五銀行が100%出資する百五みらい投資株式会社だった。今回、順調に成長させてきた事業を売却するに至ったきっかけと、買い手を選ぶ上で重要視したポイント、M&Aで事業承継を行う上で準備したことについて、上村氏とM&A仲介を担当した当社代表の松栄に話を聞いた。

 

さらなる事業拡大を夢見るも、経営者としての限界を感じる

ーー 事業を売却しようと思ったきっかけから、決断に至った経緯について教えてください

上村 当社は2010年から美容室の運営を手掛けてきました。いわゆる普通の美容室とは異なり、美容師(スタイリスト)は個人事業主(フリーランス)として、サロンに雇用されずに歩合制で働くスタイルの業務委託サロンです。事業自体は順調で、「利益1億円」を目標に掲げて1年に約1店舗のペースで拡大してきましたが、あらためて事業を俯瞰して考えたときに「守りの姿勢」に入っている自分に気がつきました。

 

会社は生き物。所有と経営を同一にする私のようなオーナー経営者が「攻めの姿勢」を取れなくなれば、会社の経営はたちまち傾いてしまいます。現状に満足してしまっては、会社に血が回らなくなりどんどん弱体化していきます。そこで、次の戦略として地方展開を検討しましたが、冷静に分析すればするほど、自分の経営スキルだけではこれ以上の事業拡大は難しいかもしれない、という考えが大きくなっていきました。経営者として、自社の進むべき方向性を従業員に指し示すことができない自分に、限界を感じ始めたのかもしれません。

 

そこから、「店舗をフランチャイズ展開する」「幹部に店舗を承継する」などの方向性を次々と検討しましたが、昨今の美容室を取り巻く環境の変化を鑑みて選択しませんでした。個人経営の美容室はより一層厳しい状況でのビジネスを迫られることになると予想されるからです。今後はオーナー経営の時代から、より組織として、企業としての美容室経営が求められる時代になると考えていました。

 

そんな状況で耳にしたのが、他社の美容室チェーンのM&Aの事例でした。創業当初から経営者としての「出口」を考えていましたから、M&Aに関する知識はある程度持っているつもりでしたし、選択肢として検討してみようと、さっそく動き始めました。

 

松栄 上村さんのように、“出口”を考えているヘアサロン経営者の方は、近年非常に増えています。“出口”とは、創業者であるオーナー経営者自身の次なるステージ。また、会社としても、“オーナー経営”から脱皮して“組織経営”へとスケールアップしていく新たなステージだと思います。弊社では[Aguグループ]のM&Aを手がけましたが、「美容室でも売却できる」と考える経営者が増えていることからも、美容業界にとって大きな刺激になっていると思います。

 

現在の美容業界は参入障壁が低いことから、多方面からさまざまなサービスが入ってきています。美容師ではない、経営のプロが経営する美容室も少なくありません。また、シェアサロンやカラー専門店なども見られるようになりました。業務委託モデルもその一つですが、これまでと同じやり方では、他店に先を越されてしまうという不安感をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

 

ーー 事業の売却にともない、最初に相談した方はどなたですか?

上村 まずは、自社の企業価値を知るために、ネットで見つけた某M&A仲介会社さんに相談しました。そこでは想像以上に高い評価をいただいて、秘密保持契約、専任契約と手続きはスムーズに進み、興味を持ってくれる買い手企業とトップ面談まで行いましたが、結果は失敗に終わりました。さまざまな理由が考えられますが、決定打となったのは相手経営者さんから、「当社を買収したい」「当社の事業を一緒に成長させたい」という熱意を感じることができなかったことです。

 

松栄 こういったケースはよく耳にします。近年、M&A仲介会社に相談しても買い手が紹介されない、実績などが不足しており、M&Aがスムーズに進まないというトラブルも増えています。特に美容業界のM&Aでは、売上がスタイリストに依存すると言われるなかで、いかに売り手企業の強みや特徴を抽出し、それを適切に買い手企業に伝えられるかが大きな分かれ道になります。その意味でも我々仲介会社は、売り手となる美容室の事業を理解した上で、今後の展望を共有できる買い手企業か否かを売り手経営者の方に先駆けて見極めなければなりません。

 

上村 M&Aを進めるなかでの長期的な交渉にストレスを感じてしまい、一度は諦めかけました。その時にふと、「みんなこんなに苦労しているのだろうか?」「AguグループはどのM&A仲介会社に頼んだのだろう?」という疑問が浮かびました。その後もインターネットなどでM&A仲介会社を検索していたところ、スパイラルグループのM&Aコンサルティングさんの広告に出会い、一度話を聞いてみることにしました。

 

「経営は駅伝のようなもの」という言葉の意味に納得

ーー M&A仲介会社として、スパイラルグループM&Aコンサルティングを選んだ理由について教えてください

上村 やはり、業務委託サロンにおける知見と、AguグループのM&Aを手掛けた実績です。松栄さんからは最初に「上村さんの希望額には届かないかもしれない」と言われましたが、それも業務委託サロンへの理解を基盤にした根拠があるからこそ。「M&Aの価格は買手が決めるもの」という厳しい言葉もいただきましたが、当社の事業を理解した上で、率直に様々な意見をいただけたことがとてもうれしかったですね。迷うことなくM&Aコンサルティングさんに仲介を依頼しました。

 

松栄さんから言われて印象に残っているのが、「経営は駅伝のようなもの」であるという言葉。マラソンのように最初(創業)から最後(廃業)まで、一人で走るのではない。駅伝のように、後継者に経営の「たすき」をつないでいくことで会社を永続させることが大切と言われたのです。自分にはさらなる店舗拡大や、経営を組織化するノウハウもありません。でも、それでいい。むしろ後継者に事業を承継することが自分の役割だと心から納得できました。

 

松栄 これは美容室に限ったことではないと思いますが、0から1を作るのが得意な方もいれば、1を100にするのが得意な方もいます。駅伝のように、長い距離を走る方もいれば、短い距離を走る方もいます。得意なことで力を発揮するというように、役割分担をすればそれでいいと思っています。会社は生き物です。0から1を生み出し、しっかりと基盤を作ったその後の成長は、適切な買い手企業に「たすき」を渡すことで、会社に残る社員に新たな成長の機会を与えられるというケースを多く見てきました。

 

ーー 買い手企業を選ぶ上では、どのようなことを意識しましたか?

上村 条件面はもちろん重視しましたが、それと同時に「事業を成長させてくれる」企業かどうかが重要なポイントでした。さまざまな企業をご紹介いただきましたが、なかには企業の文化や社風が合わないところも。数字・資料による検討よりも、経営者との話し合いを通して、当社をより成長させてくれる企業かどうかを見極めました。

 

事業の売却を決断してから、M&Aのプロセスやスキームのメリット・デメリットなどについては、自分なりに勉強していたため、実務における不安はありませんでした。まったく知らない状態でM&Aに臨んでいたら…と思うと、自分なりに準備を進めて良かったと思います。

 

ーー 買い手企業である百五みらい投資株式会社と出会ったときの印象について教えてください

上村 初回のトップ面談は、百五みらい投資株式会社さんの投資アドバイザリーを務めたソロンパートナーズの齋藤さんと行いました。面談では、ファンドから代表を用意しないこと、社内に後継者がいない場合、外部からの招聘も検討しなければならないことを聞きました。そのトップ面談がきっかけで、当社のマネジメントラインにいた杉本を後継者候補に推薦しました。

 

ソロンパートナーズさんとお会いしたときは、百五みらい投資株式会社さんが設立前だったこともあり、具体的なファンドの形は知りませんでした。しかし、事業会社よりもファンドに譲渡した方が、成長を加速させてくれるのではないかという期待があったのも事実です。

 

店舗別の収益表を作成し、説得力のある事業計画をアピール

ーー さまざまな買い手候補がいるなかで、最終的にみらい投資株式会社に決めた理由は?

上村 他社と比べて、積極的に興味を示してくれたのが百五みらい投資株式会社さんでした。「さらなる会社の発展」をM&Aの目的に設定していたため、買い手企業がどれだけ本気度を示してくれるかは重要なポイントです。買収後の事業計画をプレゼンテーションしていただきましたが、私と後継者の杉本が目指していた方向性とリンクする点も多く、百五みらい投資株式会社さんの描くストーリーに共感できたのが大きかったです。

 

百五みらい投資株式会社さんが提案してくださった事業計画書について、杉本から「もっとこうしていきたい」という積極的な意見も出るようになって、予想しなかった変化でしたが、交渉を進める中で、経営者としての自覚のようなものが現れました。最終的には、私が再出資を行いながら、杉本自身も資金を注入し株式を保有する形で話がまとまりました。

 

ーー M&Aのプロセスを進める上で、準備して良かったものはありますか?

上村 松栄さんから「店舗別の収益表を作りましょう」と言われたときは驚きました。当社は東京、千葉、埼玉に11店舗の業務委託サロンを展開しています。これまで、店舗ごとの売上や粗利について把握はしていましたが、店舗別の収益表という形では落とし切れていませんでした。松栄さんに相談したタイミングでさらに1店舗の出店を控えていたので、店舗別の収益表を作成すれば「1年間運営した場合にどれくらいの利益が出るかをPRできる」と言われて納得しました。大変でしたが、店舗別収益表は準備して良かったと思います。

 

松栄 「会社を譲渡するとしたら、どれくらいの価格で売却できるのか」を気にされる経営者の方も多いと思います。一般的に「過去3期分の決算書」をもとに譲渡価格を算出するM&A仲介会社が多いのですが、私たちはそれだけでは不十分だと考えています。むしろ、買い手企業は“過去”を買うのではなく、“未来”を買いたくてM&Aを行います。もちろんこれまでの積み重ねは大事ですが、事業計画、つまりどれだけ将来性を示せるかが重要なポイントです。

上村さんの会社は、ご相談頂いた時点で10店舗のうち1店舗は出店してまだ1年未満、さらに11店舗目の出店も決まっていた状況だったので、来期の着地見込みとその翌期の計画も作成して、買い手企業にプレゼンしました。その事業計画が、買い手企業様から高い評価を得られたポイントだったのではないかと考えます。

 

上村 M&Aを考える経営者は、企業価値を高める経営の勉強をすべきです。例えば、ムダな経費を使わないで利益を上げること、買い手企業が安心してM&Aできるように、財務内容を整理すること、予想される簿外のリスクを減らしておくことなど、実直な経営を行うことが、最も大切な準備だと思います。

 

また、自身で経験してみて、M&Aの交渉のタイミングでは不誠実な態度を取らないことが重要だと感じました。都合の悪い情報を隠したり、誤った情報を提示したりすることは、後々、買い手企業に大きな迷惑をかけるだけでなく、最悪M&A自体が破談になってしまう可能性もあるため、会社の内実は、早い段階でM&A仲介会社に開示して対策を相談するべきだと思います。

 

ーー 後継者の杉本さんに期待することについて教えてください

上村 杉本が主体となって、組織としての美容室を作ってほしい。そして、スタイリストが働きやすい環境やスタイリストに活躍のチャンスを与えられる環境を整えてほしいと思います。働きやすい環境とは、「自由な環境」を言うのではなく、意識を高く持ったスタッフがストレスを抱えることなく、それぞれの目標に向かって働ける環境のこと。会社として、組織として、チームとして、スタイリストにステップアップの道を示せるような経営の舵取りを行ってほしいと思います。

 

松栄 現在、美容室の数はコンビニの数の約5倍近くあると言われています。新たなサービスや競合店舗が乱立する激しい競争の中で、SNSやMEOの対策、ホットペッパービューティへの依存度、単価UPの施策、スタイリストやアシスタントの教育、新規出店など考える戦略はたくさんあると思います。しかし、最も重要なのは、売上を作るスタイリストにいかにモチベーションを高く持ってもらい、自身の目標に向かってステップアップしていける環境が作れるかだと考えます。今後は、“一流のスタイリスト“だけではなく、”一流の経営者“も輩出できる企業になっていってくれることを願っています。

 

本日はありがとうございました。

 

■ プロフィール

HM company 合同会社 Relato 合同会社
代表社員 上村 盛仁

池袋・新宿・渋谷・吉祥寺・赤羽・大山・浦和・船橋・千葉など、都内近郊でヘアサロンを11店舗展開。全店エリアトップクラスの集客を誇り、スタイリストが安心して働ける、働きやすい環境・稼げる環境を提供する。さらなる事業拡大のために、2019年3月に百五銀行が100%出資する投資専門子会社に事業を売却。現在、自身もファンドに再出資しながら後継者の育成や経営の承継に努める

コンサルタント
松栄 遥 (Haruka Matsue)

横浜国立大学工学部卒業後、2012年に株式会社キーエンスに入社し、工場内の生産ラインで使用する画像処理センサーのコンサルティング営業に従事。常に国内トップクラスの成績を残す(受賞歴多数)。2015年、バンタンデザイン研究所にてクリエイティブを修学の後、2016年に株式会社日本M&Aセンターに転職。役員室所属として、数多くのディールを成約に導き、年間新人賞を受賞する。その後も第一線で活躍し、2019年に「企業価値を高めて売却を狙う“スケール型M&A”」を実現させるスパイラルコンサルティングを立ち上げる。また同年、“事業承継問題“を解決すべく、株式会社M&Aコンサルティングを設立し、代表取締役に就任

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