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M&Aで店舗数が3倍に。ブランドコンセプトの異なる美容室のM&Aで生まれるシナジーとは

M&Aで店舗数が3倍に。ブランドコンセプトの異なる美容室のM&Aで生まれるシナジーとは

2022.03.04

吉祥寺を中心に3店舗の美容室を経営する合同会社ND。ハイキャリアの美容師がマンツーマンで施術・接客するスタイルで、高単価のサービスを提供し、成長を続けている。そんな同社では2021年11月、6店舗の美容室を運営する株式会社サンスーシとのM&Aを締結。3店舗展開から9店舗展開へと一気に店舗数を増やし、事業拡大を実現した。コンセプトが異なる2つのブランドのM&Aで生まれたシナジーとは。M&Aまでの経緯や率直な感想、今後の展開など合同会社ND代表の木村太祐さんに話を聞いた。


譲受企業:合同会社ND founder 木村太祐
聞き手:弊社担当コンサルタント 澤野太暉
聞き手・執筆:ライター 猪俣奈央子


スピーディーな事業拡大を実現するためにM&Aを決断

―― まずは、木村さんが今回のM&Aを検討されたきっかけから教えていただけますでしょうか。

木村 今回初めてM&Aを検討したというよりは、3年ほど前から考えて模索してきたことが、ようやく2021年に実現したというのが正直なところです。
合同会社NDが展開する「macramé (マクラメ)」は、吉祥寺近郊に3店舗を構える美容室です。今後も出店を重ね、サロン事業を拡大していきたいと考えていましたが、自分たちのコンセプトに合う出店用地をおさえるのが、まず大変で。
「macramé 」のコンセプトは、都心にありながらも、街の雑踏を少し離れてリラックスできるヘアサロン。熟練スタイリストがお客様のライフスタイルに合わせた施術をマンツーマンで手がける、隠れ家的なお店です。
このコンセプトに合う出店候補地はそう簡単に空きが出ませんし、新店を任せられる人材を一気に採用するのも難しい。そこで新規出店と同時並行で、M&Aの検討をはじめました。美容室だけではなく、ネイルやマツエクなど範囲を広げて、美容関連の売却案件をリサーチしていたんです。

 

澤野 そこで当社にお問い合わせいただいたんですよね。当初は「Sans Souci(サンスーシ)」さんではなく、別案件だったと記憶しています。その後サンスーシさんをご紹介して、早々にM&Aの意思を固められました。サンスーシさんには当時、どのような印象を持たれていたのでしょうか。

木村 法人としてしっかりとした財務基盤をお持ちで、優良企業だなというのが第一印象でした。25年以上の歴史があり、今回M&Aの対象となった6店舗は、地域密着で固定客もついています。直近の決算数字は厳しかったのですが、私たちの見立てでは改善余地のあるものでした。
そして何より、長く働いているベテランの美容師さんが多いことが魅力でした。美容室は、人がいて初めて成り立つ労働集約型のビジネスですから。人材の退職リスクが高いかどうかは非常に気になる点だったのです。
ハイキャリアのスタッフが揃っていれば、当社としても新規出店を計画しやすくなります。本人の希望を聞いたうえではありますが、サンスーシ出身のスタッフに新店を任せることもできるわけです。仮に、買収した店舗がうまくいかなかったとしても、魅力的なスタッフがいることは大きなメリットになると考えていました。

 

澤野 いずれの美容室も人材募集に苦戦していますから、社歴が長く、離職の可能性が低いスタッフさんが揃っている点は魅力ですよね。一方で、マクラメとサンスーシでは、店舗のコンセプトや客層、単価が異なります。通常、美容室のM&Aを検討する際には、コンセプトが似ている店を買収するか、買収後にブランドを統一される企業が多いのですが、木村さんはそうされませんでしたよね。

 

木村 マクラメとサンスーシは別ブランドでいいと思っているんです。
2つの異なるブランドを融合させようとしたり、無理にマクラメ流に変えようとしたりすると、波風が立ちます。それはサンスーシのブランドをつくりあげてきた方々を否定することにもなる。誰だって、まだ信頼関係を築けていないうちからアレコレと指示されたり、「僕たちのやり方に合わせてください」と言われたら、おもしろくありませんよね? 加えてサンスーシをマクラメ流に変えて料金を上げれば、せっかく長年通ってくださっている既存のお客様が離れてしまう要因にもなり得ます。
そして僕としては、「別ブランドだからこそ生まれる“シナジー”」にも期待しているんです。マクラメの特徴は、ハイキャリアのスタッフによるマンツーマン施術。つまり、アシスタントがいらないんです。裏を返せば、キャリアの浅い方を採用して育てることができない。ベテランを採用するのは難易度が高く、当社が事業を拡大していくうえでボトルネックになっていました。
一方、サンスーシブランドであれば、アシスタントを雇えます。サンスーシで修行をして技術を磨き、顧客がついてきたらマクラメで活躍するというキャリアマップを会社としてつくることもできます。このM&Aには、そんな相乗効果もあると思っているんです。

自社よりも規模の大きな企業買収
最大の悩みのタネは、“資金調達”

澤野 M&A締結までに不安だったことや大変だったことはありましたか。

 

木村 今回、最も心配していたといいますか、神経を遣ったのは“資金調達”です。
私たち合同会社NDは、サンスーシさんよりも小さな会社なんですね。売上も、歴史も、従業員規模もサンスーシさんが上回っています。つまり小さな会社が、大きな会社を買う格好なわけです。買収額も、なにも工面せずにNDからポンと出せる金額では当然ながらありません。どう資金調達するかが一番の課題でしたし、正直大変でした。
小規模の企業がM&Aをしたいと思ってもなかなか実現できないのは、資金調達に苦労するからではないでしょうか。その点では、金融機関との提携を増やしたり、自ら金融支援ができるM&Aコンサルティング会社が増えれば、もっとM&A市場が活性化するのではないかと思ったりしますね。

 

澤野 率直なご要望としては、そうですよね。M&A仲介と同時に資金調達の支援もしてほしいと。

 

木村 そうなんですよね。当社の場合は、ひとつのプロジェクト資金を複数の銀行で融資してもらう「協調融資」という形で資金調達に成功しました。僕は美容室のオーナーをしているものの、もともとはファイナンス畑を得意とする人間なので、金融機関にどうプレゼンすればいいかなどのノウハウを持ち合わせていたんです。

ただ今回、このスピードでサンスーシさんとのM&Aに成功したのは、やはり澤野さんのお力添えが大きかったと思っています。M&Aコンサルティングさんの場合、美容業界でのM&Aの実績が豊富で、気にしなければならないポイントや勘所が分かっていますから。譲渡される側の会社が何を期待して、検討にあたってどんな資料が必要なのかなどもすべてわかった上で最初から準備をしてくださるのは、非常にありがたかったですね。

―― 澤野さんは、今回のM&A支援でとくに気をつけていたことはありますか

澤野 サンスーシ代表の杭田さんは「スタッフをしっかりと引き継いでくださる方に店を委ねたい」とおっしゃっていました。美容室経営は“人ありき”だとわかっていらっしゃいますし、美容業界によくある傾向として単純に買収の金額を上げれば決まるというものでもないんです。
一方、木村さんと打ち合わせを重ねるうちに、木村さんのM&Aにかける強い想いが僕には伝わってきました。杭田さんが育ててきたお店やスタッフを引き継いでいきたいという意思が、ひしひしと感じられたんです。
ただ、この段階ではまだ二人はコミュニケーションをとっていませんから、お二人の思いが誤解なく伝わるように、僕がせき止めてしまわないようにと考えていました。木村さんの本気度をお伝えするとともに、杭田さんも賛同してくださる形で検討資料の準備や意思決定のお手伝いをしていきました。

 

木村 創業オーナーが会社を譲渡するというのは、ものすごく大きな決断です。いち美容師から会社を興して、リスクをとりながらわが子のように育ててこられた。社員さんやお取引先を増やし、地域の方々に親しまれてきたからこそ25年以上、続けてこられたわけです。その大切なお店を手放すのが、どれだけ大きな決断か。僕にはM&Aの経験もあります。だから多少なりとも、オーナー側の気持ちがわかっているつもりです。
M&Aを検討される企業の中には、譲渡する側の気持ちに思いをはせない方もいるでしょう。少しでも安く買えればいい。買収したあとは自分たちの好きなように変えればいい。そのほうが利益が出るでしょうと。いろいろな考え方があっていいと思いますが、僕の考えは、そうではありません。
オーナーさんが大きな決断をされて、大事に育ててきたお店を委ねてくださったのですから、社員さんやお客様をはじめ、そのお店に関わる方々が「オーナーが変わったことで、さらによくなった」と思ってもらえるように努めたい。それが任された側の使命だと思っています。
NDが儲けるかどうかという単純な話ではないんです。創業オーナーに「自分が築き上げてきた店を、この人に託してよかった!」と感じていただきたいですから。将来的に事業が成功して「こんなふうに大きくなりました。任せていただいて、ありがとうございました」とお伝えする日を夢見ていますし、そうしてはじめて僕にとってのM&Aが完結すると思っています。

 

「自分たちの手で会社をもっと良くしていける」
そんな期待感と手応えを味わってほしい

澤野 譲渡後の様子はいかがですか?

 

木村 サンスーシのスタッフさんたちといかに信頼関係を築いていくかに、今は力を注いでいるところです。

 

澤野 最初はスタッフミーティングを開いたそうですね。

 

木村 はい。店舗で一堂に会し、杭田さんから既存のスタッフに向けてM&Aの報告と僕の紹介をしていただきました。僕からも今後の方針を説明して、「報酬や待遇が現状よりも下がることはありませんから、心配しないでください」と伝えさせてもらって。ただ、ミーティングではどうしても一方的にこちらが話すだけになってしまいますから、食事会を開催したり、店舗に顔を出して個別にコミュニケーションをとったりしています。
先日も、ある店長が「部材を買いに行きたい」と言っていたので、「僕が車を出しますから、一緒に行きましょう」とお誘いして、ドライブしてきました。
かしこまった場ではなく、日常のやりとりの中で僕という人間をわかってもらえたら。「この人と一緒にやっていくのも悪くない」と思ってもらえたら嬉しいですよね。そのためにもまずはお互いに顔をあわせて、現場の悩みや不満、愚痴なんかも聞きながら、一緒に解決できる道を模索できればと思っています。

 

澤野 現場の課題として新たに見えてきたことはありますか。

 

木村 そうですね。25年以上、地域に愛されて固定客がついているのはすばらしい反面、現場スタッフの業務がルーティン化してしまっている側面はあります。マンネリ感や閉塞感を持っている人もいる。ベテランスタッフが多いことで若手や中堅は、“上のポストが埋まってしまっている”とも感じています。
当社とM&Aをしたことで、“自分たちの手で会社をさらに良くしていける”という手応えを味わってもらいたいですし、将来への期待感をもっと持ってもらえるのではないかと思っています。

 

澤野 最後に、今後の展望について教えてください。

 

木村 今後3年で、売上規模を現状の“倍”に、店舗数を現状の“9店舗から15店舗”にまで増やす計画を立てています。出店は、自ら出店用地を探してゼロから立ち上げてもいいですし、よいご縁があれば今回のようなM&Aを行いたいと考えています。
今回、澤野さんに誠実に、スピーディーに対応いただいたおかげで、双方にとっていい形でのM&Aが実現しました。今後もM&Aを検討する際には、ぜひ力を貸していただきたい。中長期的に当社の事業拡大に伴走いただくパートナーとして、M&Aコンサルティングさんにはこれからもご支援いただきたいと期待しています。

 

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