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【事業買収】銀行系ファンドが美容院を買収した理由

【事業買収】銀行系ファンドが美容院を買収した理由

2020.04.13

2019年12月、株式会社百五銀行は、取引先などの事業承継を専門に扱う投資会社・百五みらい投資株式会社を立ち上げた。事業承継に係る銀行等の議決権保有制限(5%ルール)の緩和後における、100%出資の投資専門子会社の設立は全国で初となる見込みだ。同社がアドバイザリー契約を締結したソロンパートナーズ株式会社とともに、第1号投資案件として選んだのは、首都圏で11店舗の美容院(美容室)を営むHM company合同会社とRelato合同会社(当社仲介)。百五みらい投資株式会社発足の経緯から、投資する上で重要視したポイント、HM companyとRelatoへの投資に踏み切った決め手について、百五みらい投資株式会社とソロンパートナーズ株式会社に伺った。

 


銀行100%出資の投資専門子会社の1号案件は美容院

『百五みらい投資株式会社」設立の経緯について教えてください

林 当社は、事業承継課題を抱えている中小企業様への投資を通じて、円滑な事業承継とそれをきっかけにした事業の発展を支援するために設立された投資専門会社です。経営者の高齢化が進むなか、後継者不足で悩んでいる中小企業も増えています。これまでも、百五銀行として中小企業の事業承継を支援してきましたが、規制の関係で銀行が事業会社の株式を100%保有することは難しく、本質的な経営支援に携わることができませんでした。しかし、2019年の出資規制などの緩和により、新たに投資専門子会社・百五みらい投資株式会社を設立し、ファンドを活用することで、事業承継に取り組む企業への資金の提供から経営支援、事業発展を積極的に行っていきます。

滝川 銀行100%出資の投資専門子会社を設立した事例は、全国でも類を見ません。当社を設立する前は、中部3県(三重、愛知、岐阜)を中心に事業承継課題を抱えている企業を支援したいと考えていましたが、当社だけで、希望に合った投資先を見つけ、交渉をスムーズに進めようとするとエリアや時間に制限が出てしまいます。地方だけで物事を完結するのではなく、エリアを超えて中小企業の課題を解決するために、ソロンパートナーズさんの知見をお借りしました。

 

投資先を探す上で重要視していたポイントはありますか?

吉川 事業承継ファンドにとって、「1号案件」の持つ意味は重要です。ファンドである以上、企業を買収してその価値を高め、利益を生み出す必要がありますが、そこではじめてファンドの点数がつけられます。つまり、当社にとっても百五みらい投資株式会社にとっても、決して失敗は許されないということです。当社には年間100~200件の案件が寄せられますが、徹底的にスクリーニングを行った結果、スパイラルグループのM&Aコンサルティングさんが紹介するHM company・Relatoさんに出会いました。

齋藤 当社が重要視したのは、「経営がどのように承継されるか」という点です。企業というのは経営者の思いが作るもの。つまり、次期経営者がいなければ、ファンドが出資したとしても成功することは難しいでしょう。本件の譲渡企業であるHM company・Relatoさんの場合、社内で杉本さんという後継者を育てられたことが大きなポイントでした。次に重要視していたのが「経営の安定性」です。HM company・Relatoさんは「面貸し」というビジネスモデルを採用しているため、いわゆる通常の美容院(美容室)と比べて、給与などの固定費がかかりません。フリーランスのスタイリストが自由に時間を選んで働くことができて、そこにお客様が来店するという仕組みです。潤沢なキャッシュフローを生める安定した基盤があるかどうかをチェックしましたが、申し分ないと思いました。

吉川 国内に事業承継ファンドは数多くありますが、結果的に失敗となったケースも少なくありません。失敗する理由はさまざまですが、そもそもビジネス自体の強みが少ない、そのビジネスに対するニーズが少ないといった根本的な理由が考えられます。業種・業態・規模など、さまざまな観点から5年後、10年後に世の中に必要とされるビジネスモデルかどうかを見極めていますが、HM company・Relatoさんは通常の美容院とは異なるビジネスモデルで、その「成長性」に期待できると判断しました。

 

百五みらい投資株式会社

提案書を通じて5年後のビジョンを双方で共有

HM company・Relatoの代表である上村さんにお会いした時の率直な印象についてお聞かせください

滝川 上村さんとトップ面談を行ったところ、ご自身で手掛けてこられた事業に愛情を持っているというのが強く伝わってきて好印象でした。さらに、これまでに11店舗まで拡大してきたものの、より発展を図るには、属人的な企業ではなく組織的な経営の必要性を痛感されていることや、スタイリストのキャリアパスや社会的地位を築ける企業を作りたいと考えていることを伺い、その「実直」な経営に対して投資したいという気持ちが強くなりました。

吉川 本件は、百五みらい投資株式会社さんが発足した12月に合わせて準備を始めてきましたが、3月に成約しています。事業承継ファンドのM&A案件では例を見ないほどスピーディーなディールです。その理由の一つに、譲渡企業の経営者である上村さんが誠実で素直だった点が極めて大きいと思います。自社の強みや弱みはもちろん、ご自身が譲れないこと、優先順位として決めていることも含めて忌憚なくお話いただきました。スパイラルグループM&Aコンサルティングの松栄さんも、それを誇張することなく我々に教えてくれたので、売り手企業、買い手企業、我々、M&Aコンサルティングさんの4社間の信頼関係を短期に構築でき、交渉自体もスムーズに進んだのだと思います。

古市 本来、当社とHM company・Relatoさんは買い手と売り手の立場で、買収監査(DD)も含めた交渉事項はたくさんありましたが、DDを行っている過程においても、成約後を見据えたビジョンや事業計画について話ができたのは当社にとって大きかったと思います。1号案件ということもあり、事例があるわけではないですが、非常に恵まれたディールだったと思います。

 

反対に苦労した点や大変だった点はありますか?

滝川 創業経営者の上村さんの思いを受け止めた上で、当社がどのような事業発展を描けるのか、それをいかに上村さんにお伝えし、理解していただくかを考えるのが大変でした。特に、ファンドが入ると「経営が劇的に変わる」というイメージを持つ方は少なくありません。上村さんの誠実さに応える意味でも、私たちも誠実な対応を心がけ、共通認識を持てるよう意識しました。例えば、言葉で伝えるだけでなく、組織化の方向性や全国展開のプランなどを提案書にまとめてプレゼンテーションしたのもその一つです。当社の母体は銀行ですので、提案書の中で地方銀行のネットワークについてもアピールしました。そうして策定した事業計画書が、上村さんの考えていた事業計画とリンクする点が多かったのは大きなポイントでした。その結果、相互の信頼関係を構築することができ、最終的には5年後のビジョンについて分かり合うことができました。

古市 松栄さんから伺いましたが、上村さん自身、当初から買い手がどういうプランを持っているかをとても気にされていたようです。上村さんとの共通認識を掴むために、松栄さんやソロンパートナーズのお二人に助言をいただきながら提案書を作成したことが分岐点になりました。

齋藤 本来、売手創業者の企業に対する想い、買手ファンドの成長戦略シナリオ、新経営者の経営ビジョンをすり合わせたり、組織・文化を調整したりするのは時間がかかる作業です。今回の取引は、信頼関係をベースにしながら、早い段階でお互いが描く事業発展のあり方を共有できた点が稀にみるスムーズなディールにつながったと思います。

 

立場・目的・方向性を一つに。売り手・買い手を超えて事業拡大に挑む

投資に踏み切った最終的な決め手・理由について教えてください

滝川 最終的には「人」なのかもしれません。当社が目指すのは事業承継をきっかけにした事業の発展。それを実現するには経済合理性だけでなく、双方の話し合いの中から、経営者の熱い思いを共有できるか否かが重要です。嬉しいことに、成約後も上村様は事業に再投資をしてくださいます。つまり、後継者への経営の承継も含めて、事業拡大に向けて一緒に取り組んでいただけるのです。

こうした上村様の経営に対する誠実なスタンスがなければ、私たちは最終的な成約に踏み切れなかったかもしれません。私たちは事業承継ファンドですから、買い手と売り手の立場上、利害が相反することもありますが、最終的には一緒になった後、お互いの強みを発揮して会社をもっと良くするという同じ目的に向かっていなければなりません。事業発展のために、対等な立場かつ、未来に向けて同じ方向性を持てたことが成約する上で大きなポイントでした。

 

今後の目標や展開について教えてください

吉川氏・齋藤 今回、無事成約することができましたが、ここがゴールでありません。関連事業の買収なども含めて、これから事業拡大のためにやるべきことはたくさんあります。これからも百五みらい投資株式会社、HM company・Relatoさんの発展のために、投資アドバイザーとして貢献していきたいです。

滝川 率直な気持ちで言えば、まずは、成約できたことに安堵しています。ソロンパートナーズさんやM&Aコンサルティングさんのお力はもちろんですが、当社の林をはじめ、関係者の理解や協力があったからこそ成約できたのだと思います。ソロンパートナーズのお二人が言うように、投資ファンドはM&A後にこそ真価が問われます。上村さんの当社に対する期待を超えられるよう、さまざまな施策を打って、事業拡大を実現してきたいです。また、今後は百五銀行の取引先に対しても積極的にアプローチを行い、当社グループのノウハウやネットワークを生かし、当社にしかできない事業承継課題の解決と、それをきっかけにした事業拡大を実現し、日本の中小企業の経済発展に貢献していきたいです。

もちろん、松栄さんはじめM&Aコンサルティングさんともよい関係を続けていければと思っています。今後ともよろしくお願いします!

本日はありがとうございました。

 


■ プロフィール

百五みらい投資株式会社
代表取締役 林 篤紀
京都大学卒。1986年百五銀行入行。支店勤務を経てメガバンクの海外支店へ出向(1年間)。帰任後、本部の国際部門にて海外シンジケートローンを、ALMリスク管理部門にて新しい収益管理制度および統合リスク管理制度の導入を担当。その後、リスク管理部門の課長職、営業店の支店長を経て、リスク管理部門の部長職、監査部門の部長職を務める。2019年6月に経営企画部に異動し百五みらい投資株式会社の設立準備を担当。2019年12月に同法人が設立されるに伴い代表に就任。現在に至る
百五みらい投資株式会社 滝川 充
百五みらい投資株式会社
取締役 投資グループ長 滝川 充
松阪大学(現三重中京大学)。卒。1991年百五銀行入行。支店勤務を経てメガバンクのプライベートバンキング部門へ出向(1年間)。帰任後、本部コンサルティング部門にて6年超在籍し、事業承継支援業務を担当。その後、東京営業部ホールセール部門統括、支店次長、事業承継・M&A支援業務を中心とする本部コンサルティング部門の課長職を務める。2019年6月に経営企画部に異動し百五みらい投資株式会社の設立準備を担当。2019年12月に同法人が設立されるに伴い出向。現在に至る
百五みらい投資株式会社 古市 大輔
百五みらい投資株式会社
投資グループ長代理 古市 大輔
慶應義塾大学卒。百五銀行入行。8年間の支店勤務を経てメガバンクのストラクチャードファイナンス部へ出向(1年間)を経験。帰任後、本部ストラクチャードファイナンスチームに6年超在籍し、3年間はチームリーダーとしてプロジェクトファイナンス、LBOファイナンス等のアレンジメント業務に従事。2019年6月に経営企画部に異動し百五みらい投資株式会社の設立準備を担当。2019年12月に同法人が設立されるに伴い出向。現在に至る
ソロンパートナーズ株式会社 齋藤 正継
ソロンパートナーズ株式会社
代表パートナー 齋藤 正継
横浜国立大学卒、日本証券アナリスト検定会員。三菱重工(5年間)にてプラント建設工事プロジェクトマネジメントを経験。野村證券(11年間)にて中近東、東南アジアで海外営業、プライベートバンキング、国内で企業金融を経験。UBS(3年間)においてプライベートバンキング立ち上げに参画。新生銀行(4年間)において伊藤忠商事と合弁で買収ファンドのラフィアキャピタルを設立運営。メーカー、ゲーム会社等のMBOを手掛ける。CLSAキャピタルパートナーズジャパン(8年間)においてマネージングディレクターとして350億円の買収ファンド立ち上げに参画。投資先である物流会社(社員数600人規模)の代表取締役を勤める。 共同創業者として2014年9月にソロンを設立
ソロンパートナーズ株式会社 吉川 明
ソロンパートナーズ株式会社
代表パートナー 米国公認会計士 吉川 明
慶應義塾大学卒、米国Thunderbird MBA、米国公認会計士。野村證券において、中小型上場企業を中心に80社強(総額5,000億円超)のファイナンス組成及び6社の株式公開を手掛ける。MBA留学を経て、日本政策投資銀行においてプリンシパル投資に従事。金融危機等で日経平均が40%強下落した2007年からの3年間において、担当した全ての案件でリターンを上げ、50%超の投資実績を残した。同行初の単独MBO投資案件となったD社では、ソーシングからハンズオン、エグジットまで一貫して担当し、社員400人をまとめる経営管理担当取締役として、営業赤字だった同社を営業利益10億弱(創業来最高益)を上げる優良企業に再生した。また、同時期にデトロイトの自動車部品メーカーS社においても、ビッグ3の混乱で同業他社が倒産する中でリターンを実現。 共同創業者として2014年9月にソロンを設立

Writer
松栄 遥 (Haruka Matsue)
横浜国立大学工学部卒業後、2012年に株式会社キーエンスに入社し、工場内の生産ラインで使用する画像処理センサーのコンサルティング営業に従事。常に国内トップクラスの成績を残す(受賞歴多数)。2015年、バンタンデザイン研究所にてクリエイティブを修学の後、2016年に株式会社日本M&Aセンターに転職。役員室所属として、数多くのディールを成約に導き、年間新人賞を受賞する。その後も第一線で活躍し、2019年に「企業価値を高めて売却を狙う“スケール型M&A”」を実現させるスパイラルコンサルティングを立ち上げる。また同年、“事業承継問題“を解決すべく、株式会社M&Aコンサルティングを設立し、代表取締役に就任


 

【 コンサルタントコメント 】

売り手と買い手の相互理解

コンサルタントの目
投資ファンドは、会社や事業を買収し、取得した事業の価値を高めることによって利益を生み出します。そのために少なくない資金を投下するのですから、買収する事業の将来性や企業評価にシビアになるのは当然です。

 

他方、売り手となるオーナー経営者さんは事業意欲の強い方が多いです。自身の会社や事業に対して、誰よりも愛着をお持ちですし、さらなる成長を望んでM&Aを決断されます。ですから、金銭的な評価はもちろんのこと、ファンドが自分の会社や事業をどのように位置付け、どう成長させようと考えているのかという姿勢を重要視されます。

 

M&Aでは売り手と買い手は利益相反する立場ですので、対立する敵対的な関係を想像される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、友好的なM&Aにおいては、「未来の展望を一緒に描いていくパートナーの関係」という表現がしっくりきます。

 

M&Aにおける折衝は、相手の弱点を攻めて打ち負かすバトルではなく、売り手は「安心してバトンを託せる相手なのか」、買い手は「受け取って走り続ける価値のあるバトンなのか」を確認し合っていく作業です。つまり、相手を信頼し、真摯に向き合える場が整うかが成功の鍵になります。もちろん、最終的に条件が折り合わないケースもたくさんありますが、ベースとなる相互理解がなければその入り口に立つことすらできません。利益だけを重視してビジネスモデルに興味を示さないファンドの支援を受けたいと思う売り手の経営者はいないですし(優秀であればあるほど)、一方で思い入れだけが強く、利益体質に無頓着な経営者の事業説明は買い手の投資家に届かないのです。

 

お気付きの方もいらっしゃると思いますが、上記の例えの中で、売り手は相手を見、買い手はバトンを見ています。ふたりの「目」の焦点がうまく合うようにサポートをするのが我々仲介会社の仕事になります。

 

上村社長に最初にお会いした際、「M&Aの価格は買い手が決めるもの」というお話をさせていただきました。それは、売り手は買い手に譲歩すべきという意味ではなく、M&Aを考えるなら「買い手企業の立場や考え方を知り、相手のことを理解した上でこちらの方針を決めませんか」という提案でした。そうすることで、交渉において「譲れる点」「譲れない点」が明確になります。そして、その方針は、相手に対して真摯な姿勢を示すことになり、結果的にスムーズな交渉につながります。

 

今回、投資会社・百五みらい投資株式会社さんには、第1号投資案件として当社のお客様、HM company合同会社・Relato合同会社さんの事業を選んでいただきました。スムーズに、そして双方の満足度が非常に高いカタチで成約に至れたのは、上村社長の誠実なお人柄と実直な経営方針、それを信頼し、適切に評価した上で魅力的な未来のプランを提示してくださった百五みらい投資株式会社さん、ソロンパートナーズさんの相互理解があってこそでした。

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